蔵王の四季と心の風景 ~ 冬の祭典とともに思い出すふるさとの山 ~
2026.02.20
世界中の視線が集まるミラノ・コルティナ冬季オリンピック。
テレビに映し出されるイタリア北部の荘厳な山々が、どこか、ふるさと上山から見た蔵王連峰の姿に重なって見えました。
蔵王連峰は、山形と宮城の県境にまたがる火山群。古くは「蔵王権現」として信仰の対象となり、修験道の聖地としても知られてきました。山の神々と人々の祈りが交差するこの場所には、時を超えて受け継がれる静かな力が宿っています。また、主峰・熊野岳を中心に連なる山々は、四季折々の表情を見せてくれます。春の霞がかった新緑、夏の深い緑陰、秋の燃えるような紅葉、そして冬の静寂に包まれた白銀の世界。どの季節も美しいけれど、やはり冬の蔵王には特別な想いがあります。
学生時代、友人たちと連れ立って、バスや自家用車で蔵王温泉スキー場へと何度も足を運びました。授業が終わると急いで準備をして、夕暮れの山道を登っていくあの時間も、今となってはかけがえのない思い出です。滑った後に温泉で体を温めながら語り合ったことも思い出します。山形大学の山寮コーボルトヒュッテにも、何度も泊まりました。あの時間は、今でも心の宝物です。今はもう、あの頃のように無邪気に滑ることはなくなりましたが、日々の暮らしの中でふと見上げる蔵王の姿に、あの頃の記憶がそっとよみがえります。
蔵王の冬の風物詩といえば、やはり「樹氷」。厳しい気象条件が生み出すこの自然の芸術は、アオモリトドマツに着氷した霧氷が幾重にも重なり、まるで雪の怪物のような姿をつくり出します。その幻想的な光景は“スノーモンスター”とも呼ばれ、世界中の観光客を魅了してきました。しかし近年、この樹氷が危機に瀕しているのです。松くい虫によるアオモリトドマツの枯死や、地球温暖化による気温上昇の影響で、樹氷の形成が難しくなってきています。かつては山肌を埋め尽くしていた白い怪物たちも、年々その数を減らし、姿を変えつつあります。また、蔵王のスキー文化を語る上で忘れてはならないのが、オーストリアの伝説的スキーヤー、トニー・ザイラーの存在です。1956年のコルティナ・ダンペッツォ五輪で三冠を達成した彼は、その後蔵王を訪れ、日本のスキー技術の発展に大きく貢献しました。蔵王温泉スキー場には、彼の功績を称える石碑が今も静かに佇んでいます。現在のミラノ・コルティナの競技を見ながら、ザイラーが滑ったあの時代に思いを馳せると、蔵王が世界とつながっていることを改めて感じます。
ナショナルジオグラフィックが発表した「Best of the World 2026(2026年に行くべき世界の旅行先25選)」に、山形県が選ばれました。蔵王の樹氷や温泉、山寺、銀山温泉など、自然と歴史が織りなす風景が高く評価されたのです。このニュースをきっかけに、山形を訪れる外国人観光客も増え、特に冬の蔵王は、SNS映えするスポットとして世界中から注目を集めています。地元の人々の温かいおもてなしも、訪れる人々の心をつかんで離さないのではないでしょうか。
蔵王の魅力は冬だけにとどまりません。夏には高原の涼風が心地よく、避暑地としても人気があります。特に「お釜」と呼ばれる火口湖は、エメラルドグリーンの湖面が神秘的な輝きを放ち、訪れる人々を魅了します。登山道を歩きながら、足下に咲く可憐な「駒草」や眼下に広がる町並みを望むと、子どもの頃に見た蔵王の風景がよみがえります。あの頃は、ただ大きな山だと思っていた蔵王が、今では何気ないときにふと思い出す、懐かしくてあたたかい存在になっています。
こうして日々、ふとした瞬間に見上げる蔵王の稜線は、私にとって変わらぬ心の風景です。季節ごとに表情を変えながら、いつもそこにあるその姿に癒されてきました。これからも、暮らしの中でそっと寄り添い、静かに語りかけてくれるこの「ふるさとの山」とともに、日々を重ねていけたら…。そんな願いを込めて、今日も蔵王を見上げています。<令和8年2月20日 NO.47>