お名前でお呼びする
2008.06.02
社友会がありました。年に1度の総会、懇親会があり、我が社OBの方々と顔を合わせることができます。最高齢はこの6月で100歳を迎えられる石垣貞次郎元社長です。石垣社長を筆頭に、先輩のみなさま、本当にお元気で、仕事に、趣味にご活躍でありました。
さて、社友会のような場では、「あれ、この先輩、お名前は…」と、思い出せない方がいらっしゃいます。こうなるともう一種のパニックで、何とかして思い出そうとしたり、お声をかけられたらどうしようと考えたり、もう大変です。先輩に対して大変失礼です。
人様をお名前でお呼びするのは当然のことで、人間関係、コミュニケーションの基本です。このことを最初に教わったのは、実は幸田文さんの文章でした。幸田文さんは、お父さんの幸田露伴に連れられて、よく散歩をしたそうです。
「植物にも名前がある。植物の名前が分かれば、どうしてそのような名前が付いたのかとか、その植物に興味がわいてくる。きいたり調べたりして、その植物のことがもっと分かり、その植物が好きになる。第一、ちゃんと名前があるのに名前で呼ばないのは、その植物に対して失礼だ」
そう言って、幸田露伴は娘に植物を教えたそうです。幸田文が名作『木』を書いたのはそのためでしょう。幸田文は、樹木や植物が大好きなのです。幸田文にあやかって、私も子どもたちにこんな話をしたことがありました。
春に飛び回る白いチョウがいます。ふつう、「あ、モンシロチョウだ」といわれます。でも、山形では、4種類の白いチョウが飛んでいるのです。モンシロチョウ、スジグロシロチョウ、ツマキチョウ、ウスバシロチョウです。
モンシロチョウとスジグロシロチョウがいちばん普通に見られますが、ちょっと郊外に出るとツマキチョウも飛んでいます。ウスバシロチョウも畑のまわりや雑木林の近くにたくさんいました。「いました」と過去形にしたのは、どんどん減っているからです。
ウスバシロチョウはモンシロチョウなどのシロチョウ科ではなく、アゲハチョウ科です。氷河期からの生き残りと言われ、繭を作るチョウとして知られていました。ウスバシロチョウの幼虫はムラサキケマンという植物を食べます。ですから、ムラサキケマンがなくなると生存できないのです。
この4種類の白いチョウが飛んでいるとき、いつも「あ、モンシロチョウだ」と言っているとしたら、それはチョウに対して失礼です。ちょっととまった姿を見て、筋があるからスジグロシロチョウだとか、羽の先にきれいな模様がある、ツマキチョウだとか、羽が透きとおっている、ウスバシロチョウだなんて、名前で呼んであげたいものですね。
チョウを名前で呼ぶと、もっとそのチョウを知りたくなり、好きになります。そう言えば、うちの社員、先生方のお名前をよく知っていて、先生方をお名前でお呼びし、お話をさせていただいているから、先生方を好きなのだなあ。納得!