初めての海外の旅
2016.10.25
霜降や 朝しらしらと 繭の色(小坂文之)
なかなかいい句ですね。白銀(しろがね)に輝く霜を繭に見立てているところが素敵です。暦のうえでは霜降を迎えました。山間部では紅葉が山々を飾り、めっきり寒さも増してきました。月山は今日、初冠雪です。
さて、今月中旬に教育ウチダ会の海外研修視察でバルト3国エストニアのタリンとロシアのサンクトペテルブルグに行ってきました。海外旅行はまったく初めてです。片言の英語も話せないし、パスポートや入国ビザ等の手続きも煩わしく、専務に誰か代わりに行って欲しいとお願いしたのですが、ぜひ行けということなので意を決して四泊六日の視察に参加してきました。
結論から言うと、とてもすばらしい経験をさせていただきました。アジアの国々では感じることができない、異国情緒あふれるヨーロッパの文化と生活に触れることができ何もかもが新鮮でした。
初めての海外の印象をいくつか紹介します。
一つは、入国、出国、搭乗手続きが厳しいことです。日本は島国なので、陸続きに他の国との出入りすることはありません。国境を超えるという経験はとても新鮮でした。エストニアからロシアにバスで移動する際、国境の町ナルヴァで出国と入国の審査を受けました。じっくりパスポートの写真を見られ、審査を受けることはあまり気持ちのいいことではありません。特に、ロシアの女性審査官の厳しく無表情な顔は印象的でした。
搭乗手続きも大変です。昨今のテロの多発もあり、極めて厳しいです。ベルトを外し、靴も脱がなくてはいけない所もありました。
その際、最低英語が理解できないと大変です。ほとんど英語が話せないわたしのような日本人は四苦八苦です。国が陸続きになっている向こうの人は、母国語の他に最低一つ、さらにもう一つの外国語が話せます。これまで必要感を感じてこなかった自分の語学力の乏しさを恥じ、やはりグローバルな社会で生きていくためには、外国語教育の必要性をあらためて感じたところです。
二つめは、エストニアのギムナジウムを訪問して感じたことです。ギムナジウムとはヨーロッパの中高一貫学校のことですが、訪問したPelgulinna Gymnasiumは小中高一貫学校です。あどけない小学一年生から半分大人のような高校生まで在籍しています。
エストニアは人口130万人の小国ですが、国の未来をIT先進国として位置づけています。そのため、小学一年生からIT教育が盛んに行われています。算数や社会はもちろん、楽しそうにミニロボットを使って文字を書き、絵を描いている場面には驚きました。
しかし、先進的なIT教育だけでなく、芸術や民族意識を高める教育にも熱心に取り組んでいる姿勢にはとても感心しました。
印象的だったのは、子ども達の表情の豊かさです。どの子どもも素直で明るく優しそうな表情をしていました。日本では今、子ども達の心の問題が大きな課題です。朝から怒号と喧噪が入り交じるような教室もありますが、訪問した学校は落ち着いた雰囲気の中で熱心に学習に取り組んでいました。
小学生は男の子と女の子、男の子、女の子同士が自然に手をつないで移動している光景も印象に残りました。そこには、人と人がつながり合うことを大切に思う社会的な基盤があるような気がしました。
三つめは、訪問した3つの国、エストニア、ロシア、フィンランドすべてに共通することです。それは、家族を大切にしているということです。どの場所でも、子どもを大声で怒るような場面を見ることはありませんでした。常に静かに諭し、時にはしっかりと抱きしめ親としての愛情を示している場面ばかりでした。楽しそうに会話をしながらいっしょに食事をする、親子連れだってショッピングをする。そのような光景はうらやましく思えました。
日本の家族は子どもが幼い頃は濃密過ぎます。小学校高学年の頃からは親は親、子は子の親子分離形態になります。家族関係は希薄になっていきます。訪れた国の家族関係は濃密過ぎず、希薄にならず、ある意味フラットです。幼い頃から、人として、家族として、社会人としてしっかり扱われている思いがします。たぶんそれは二つめの印象の社会的な基盤につながっているような気がします。
ふだん生活の中で当たり前のように自分の感情を豊かに表現する欧米人と、感情を表に表さず常に論理的な割に、いったん事があると感情を爆発させる日本人の違いを感じた気がします。
今回の視察旅行では、タリンとサンクトペテルブルグの二つの世界遺産のすばらしさもさることながら、民族性や国の社会の構造や形態の違いを感じることができました。思い出に残る経験と体験をさせていただきました。
あらためて、教育ウチダ会の皆さまに感謝を申し上げます。ありがとうございました。
追記
社員のみなさん、写真を「全社共有」にアップしておきますので、よかったらご覧ください。(2016.10.25)