変わる街中 寂しい山形市七日町界隈
2018.05.30
紫陽花に 雫あつめて 朝日かな (加賀千代女)
通勤途中に霞城公園の中を通ってくる時があります。土手の桜の木も鮮やかな緑葉におおわれ、まさに目にも眩しい青葉に衣替えです。現在、「山形城復元」事業の一環として、本丸西側の発掘作業が行われています。遅々として作業は進んでいませんが、久しぶりに通ると風景の変化に驚かされます。
これも風景が変わっていく話です。
この4月、山形商工会議所が創立120周年を記念して特集号を発刊しました。「グラフィティ」と称するだけあって、たくさんの写真が掲載されています。明治から平成までの珍しい写真がたくさん載っていますが、その中の1枚には驚きました。それは、昭和47年10月の日曜日、七日町で行われた歩行者天国の様子を写したものです。
富岡楽器店から交差点を挟んで北西にあるマンション付近を写した写真には、ものすごい人だかりが写っています。ざっと数えて400人以上の人、人、人です。ちょうど北西角に大手スーパー「ジャスコ」が開店した直後ということもあって、終日5万人の人出になったと説明書きにあります。ほとんどの女性が大きな紙袋をさげながら人混みをかき分けて歩いています。銀座の歩行者天国に匹敵する混雑ぶりです。
あれから46年、この界隈は車は通っても歩いている人は多くありません。夕方も閑散としています。老舗デパート「大沼」の横にあった甘栗店も閉店しました。もう、あの香ばしい焼き栗の香りもかげません。「みつます」跡にあったコンビニもいつの間にかなくなっていました。一大商店街を誇っていた七日町も、櫛の歯が欠けたように更地が目立っています。
そういう自分も、飲み会の他にはほとんど通らなくなりました。そこで、散歩がてら日曜日に、十日町角から旧県庁「文翔館」まで写真を撮りながら歩いてみました。久しぶりの雲一つない晴天、清々しい陽気の中を出発です。
十日町角、昔は「いなり角」と呼ばれ、菓子店や医院、食堂があって賑やかな一角でしたが、今はマンションやホテルが建ち、歩道も整備されて落ち着いた雰囲気です。その「いなり角」から紅の蔵前を通り、山銀十日町支店まで。ここには、まだ中高年向き衣料品店「糸惣」ががんばっています。「カバンのフジタ」も健在です。
山銀十日町支店から山形中央郵便局まで。山銀の西向かいには菓子店「山十大屋」のレトロな建物がありました。モダンな店構えに入るだけでも緊張したものです。もう今は駐車場になってしまいました。さらに北にさかのぼると、寝具店「のむらや」と食品問屋「丸太中村」の風格ある建物があります。「丸太中村」の立派な門構えの入り口には『個人の住宅です』という表示があります。文化財と間違って入ってくる人もいるのでしょう。そのぐらい格式を感じるたたずまいです。30mほどのぼると教会のような石造りの建物がそびえています。「吉池小児科」です。こちらも立派です。モダンです。調べたら、大正元年(1912年)竣工だそうです。郵便局北側の瀬戸物屋「市村本店」はまだ健在です。ここまでが十日町商店街です。
東北電力交差点から大沼デパートまで。このあたりは本町商店街と七日町商店街になります。絵画材料店「彩画堂」、「ゆうき」呉服店、「グランドホテル」、仕出し屋「エビスヤ」、「八文字屋」書店など、まだまだ老舗ががんばっています。しかし、この界隈が一番寂しくなりました。グランドホテルを少しのぼった「さかいそば屋」は、建物の周りが全部駐車場です。まるで、中国の嫌がらせ土地収用の孤立した土地のようで、なかなかの風景です。
さて、いよいよ大沼デパート前、問題の写真の場所です。人がいません。多く見積もっても14、5人です。高層マンションがそびえ、広場が整備されていますが、人がいません。「セブンプラザ」は改装のため、空きビルになっています。憩いの場所として整備された「御殿堰」にも人が一人もいません。昔ここにあった宝塚映画館、特に小劇場にはずいぶんと通いました。旧松坂屋「ナナビーンズ」1階の紅茶専門店が賑わっているだけでした。
ここから旧県庁「文翔館」までは昔とさほど変わらず、市役所、銀行、JAビル、県民会館といった、山形市一番の中心エリアです。しかし、日曜日で人通りはほとんどありませんでした。人がいないので、なぜか落ち着きます。
わずか1、2㎞、時間にして30分の散策でしたが、街並みの寂しいたたずまいにため息をつくしかありませんでした。あの写真の時の賑わいは夢の跡のようです。実際に歩いてみると、中心商店街の現実が一目瞭然です。「Google Map」のストリートビューを見れば、歩くことも必要ありません。また、山形の今と昔をブログと写真で紹介されている方もいらっしゃいます。しかし、実際にこの目で見、肌で感じることで現実が理解できます。
昔を懐かしむことは、自分も年を取ってきた証拠だと寂しくなります。現実逃避だとも言われます。しかし、「ノスタルジーは、私たちの『今』を見つめる目を変える」という人もいます。その意味でも、とてもいい体験をすることができたなと思う一日でした。(2018.5.30)