旧国立競技場の思い出 その2
2021.08.02
1964年開催の東京オリンピックは、6歳の私にとって全く興味はなく、大好きなテレビ漫画の時間帯におけるチャンネル争いで負けたときは、怨念しかありませんでした。そのためか、東京オリンピックの記憶はほとんどありません。
それから14年後の1978年5月、私が20歳の時です。人生で初めて国立競技場のゲートをくぐりました。サッカーの第1回キリンカップ、日本代表対コベントリーシティを見に行った時のことです。「ここで、14年前、オリンピックが開かれたのか…」。決して6歳の頃の記憶ではない、後にテレビで何回か見た映像がいつの間にか私の記憶になってしまっている東京オリンピック。その擬似的な記憶と初めて実際にスタンドから眺める風景がリンクして、妙に懐かしいような感慨深いものがありました。
感想1:とにかく「でかい!」。バックスタンド中央部分が山のようにそそり立っていて、そこから左右のコーナーにかけて、スタンド全体がすり鉢状に傾斜しているフォルムが美しい。
感想2:ロイヤルボックスの左右に掲げられた一対の白黒のモザイク壁画はいったい何? 「金剛力士像?」と思いきや、画家の長谷川路可さんの作品で、向かって左側が相撲の祖といわれている「野見宿禰(のみのすくね)」、右側はギリシャ神話の「勝利の女神」でした。初対面のモザイク壁画なのに、なぜか歴史的な、日本的な文化を感じ、ちょっとだけ誇らしく思いました。
その後も、国立競技場にはサッカーの試合を見に何回か足を運びました。クライフ、ベッケンバウアー、マラドーナ、ジーコなど世界のスーパースターを生で見られて幸せでした。Jリーグの試合を初めて見たのも国立競技場。浦和レッズサポーターの迫力に「日本もここまで来たか!」と興奮したものでした。私にとって国立競技場は、東京オリンピックが開かれた場所というよりは、サッカーの数々の思い出が刻まれた殿堂的存在でした。
残念ながら、東京2020オリンピックの新しいスタジアムを作るため、この国立競技場は壊されてしまいました。個人的には、歴史と伝統ある国立競技場をリニューアルして使った方が、東京らしかったのではないかと今でも思っています。
2003年にロサンゼルスのオリンピックスタジアムを訪れた時のことです。テレビで見て印象に残っている聖火台を実際に見たとき、「あっ。ここだ!」とすぐに1984年開催のオリンピックがなつかしく思い出されました。実は、このスタジアムは、1932年開催のオリンピックスタジアムをそのまま使っていました。そして、2028年のオリンピックでも使うそうで、すでにリニューアル工事は完成しているとのことです。最新式のスタジアムもいいですが、歴史的なものを大事に使う、いや、歴史的なものを積極的に使うために工夫することもいいなと思います。
写真:旧国立競技場が壊される直前の風景。2014年10月12日撮影。バックスタンド側の「青山ゲート」とメインスタンド正面入口の上にあった「東京オリンピック金メダリスト319人全員の名前が刻まれた銘板(御影石)」