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「待ち」の文化  ~ 小さな文化に学ぶ③ ~

2025.06.17

 現代社会はスピードを求める時代です。正誤は別にして情報は一瞬で手に入り、物事はすぐに結果を出すことが求められます。しかし、世界には「待つこと」に価値を見出す文化が存在し、それは単なる忍耐ではなく、人間の成長や関係性の深化に寄与してきました。今回は、「待ち」の文化の歴史やエピソードを交えながら、その重要性を探り、「時間が育む価値」について考えてみたいと思います。

 日本には古くから「待つ」ことを尊ぶ文化がありました。茶道においては、亭主と客の間に流れる静寂の時間が、心を整え、互いの距離を縮める役割を果たしてきたと言います。能や歌舞伎といった伝統芸能もまた、間(ま)を大切にし、観客に考える時間を与えることで、物語の奥深さを生み出しているとも言えます。また、日本の伝統的な婚礼習慣においては、「結納」という儀式(今は皆無?)が重要視されますが、結納は結婚の約束を形にする儀式であり、結納から結婚式までの期間には準備のための時間があります。この時間は単なる手続きではなく、家族同士の関係を深める機会となり、結婚そのものに対する理解や覚悟を育む「待ち」の文化と言えるのではないでしょうか。

 もちろん、「待ち」の文化(「時間をかける」文化)は日本だけではありません。例えば、フランス料理のコースでは、ゆっくりと食事が進められることで味を深く楽しむ時間が生まれます。ワインの熟成もまた、「待つ」ことで味わいが増す象徴的な例と言えるでしょう。イタリアの「ドルチェ・ヴィータ(甘い生活)」という考え方は、急ぐことなく人生を楽しむことを大切にします。イタリアの人々はカフェで長く会話を楽しみ、散歩をしながら街の美しさを味わいます。今、日本でも○○カフェという場が、盛んに創られています。気負わずに時間をかけることが、生活の豊かさを生むという哲学でしょうか。

 待つことは、人との関係性を育みます。友人との約束を楽しみに待つ時間は、その瞬間をより大切にする気持ちを生みますし、恋愛においても、連絡を待つ時間や、デートの準備をする時間は、お互いの気持ちを高める要素となるのではないでしょうか。待つことで、物事の価値をより深く理解できる面もあります。例えば、職人が長い時間をかけて作る伝統工芸品は、その制作過程を知ることで価値が増します。短時間で得たものよりも、時間をかけて手に入れたものの方が、大切にしたくなる心理が働くのもよくあることです。

 待つことは、人の成長に欠かせない要素です。今、主体性を育むことが最重要視されていますが、元々、主体性は生まれる前から子ども(胎児)の中にあり、生まれてから主体性を削いでしまうような関わりの方が問題視されています。為すことによって学ぶ、遊びながら学ぶ、体験を通して学ぶ、やってみて学ぶ。為すことや遊ぶこと、体験を通すこと、やってみることは、すべて時間がかかることです。ですから、「待つこと」「見守ること」「時間を保証すること」は最大の環境になります。子どもはペットではありません。親や第三者の意のままに・・・などなりませんし、都合のよいロボットにしてしまっていけません。親の愛情である「待つ」時間があることで、忍耐力や感謝の気持ちをも育むことになるでしょう。仕事においても、結果を急がずに経験を積むことで、より深い知識やスキルが身につく場もたくさんあります。

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 「待ち」の文化は、単なる忍耐ではなく、人を育む力を持ちます。関係性を深め、価値を理解し、人生を豊かにする要素として、「待つこと」は重要な役割を果たしています。一方で、「急ぎ」の文化が発展した現代においては、待つことの価値が見過ごされがちです。だからこそ、改めて「待ち」の文化を見直し、時間をかけることの大切さを再認識することが求められるのではと感じます。
 急ぐことなく、ゆっくりと成長し、関係を築き、物事の本質を味わう。それこそが、「待つこと」が持つ本当の価値なのかもしれません。<令和7年6月17日 NO.31>

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