社長ブログ

「構え」の文化  ~ 小さな文化に学ぶ⑤ ~

2025.08.25

 第107回全国高校野球選手権大会が閉幕しました。熱戦の末、沖縄尚学高が3-1で日大三高を破り、夏大会の初優勝を飾りました。野球部員の暴力や、それに伴うSNSをめぐる一連の問題への対応も話題になりました。今夏、甲子園球場では、延べ72万人を超える観客が声援をおくったそうです。

 白球を追う、さわやかで溌剌とした姿…。毎年、感動のドラマが生まれてきました。
 プレーの基本は、「キャッチボール」にあると言われます。野球やソフトボールにおける「キャッチボール」は、単なる準備運動ではありません。実践の場に生きる「構え(姿勢)」をつくる、とても大切な活動だと言えます。

 今回は、「構え」の文化として、「キャッチボール」を考えてみたいと思います。
 投げ合うだけの単純な動きの中に、相手の心を読み、呼吸を合わせる奥深い世界があります。キャッチボールと聞くと、多くの人は肩を温めるための準備運動だと思うかもしれません。しかし、そこには日本的な「構え」の文化が息づいていると感じています。ここでいう「構え」とは、ただの姿勢やフォームだけではなく、相手と呼吸を合わせ、心を整える精神的な準備のことです。剣道や弓道、茶道などに見られる、間合いや呼吸を合わせる感覚。それがキャッチボールというシンプルな動作の中に込められているのだと思っています。

 「構え」という言葉は、武道の世界ではとても重要な意味を持っています。剣道の中段の構え、弓道の射位での構え、柔道や空手道で組み手に入る前の構え。いずれも、技を出す前の意識と体の集中を表します。相手に向かい合いながら呼吸や視線、重心を整え、互いの間合いを感じ取る。こうした意識の有無が、その後の動きや結果を左右します。キャッチボールでも同じように、投げる前から構えは始まっています。グローブを手にはめ、相手の位置を確認し、足を肩幅に開き膝を柔らかくして、肩を回す。そうして心と体を少しずつ整えていくのだと思います。

 キャッチボールの「構え」には、身体の構え、心の構え、そして関係性の構えの三つの要素があると思います。身体の構えは、安定した姿勢やフォームが相手への信頼感につながります。崩れた投げ方は相手に不安を与え、安定した動作は「この球はちゃんと届く」という安心感をもたらします。心の構えは、一球を投げる前に「どう投げれば捕りやすいか」を考える思いやりです。そして関係性の構えは、相手の状態を球越しに感じ取ることです。強めの返球なら元気な証拠、少し乱れた球なら疲れが出ているのかもしれません。
 また、キャッチボールは、単なる技術練習にとどまらず、人と人をつなぐ小さな「呼応の儀」なのではないかとも思います。キャッチボールの基本は、「相手の構えている胸のグローブに向かってしっかりと投げること・投げられたボールを胸に構えたグローブでしっかりと受け取ること」です。でも、いつもそうピッタリといくわけではありません。ですから、投げる側、受け取る側の「相互の気遣いと柔軟に対応できる心構え」が必要になります。親子が公園で投げ合う場面では、ボールを通じて声や気持ちが伝わり、無意識のうちに構えの習慣が身についていく様子も見えます。初対面の仲間同士でも、数分投げ合えば距離が縮まり、言葉を交わさずとも相手の性格や気分が見えてくることもあります。

 「構え」の文化は、野球や武道に限らず日常や仕事の場にも生きています。会議の前の一呼吸や、面談での相手の様子をうかがう時間、初対面での軽い会話や笑顔も、すべてが「構え」の一種です。いきなり本題に入るよりも、間を作り呼吸を合わせたほうがスムーズに関係を築けます。相手と自分の心を結び、呼吸を合わせることで信頼を育む。「構え」には、社会の中での人間関係をより豊かにする力があります。

 「一緒に創りあげていくという『呼応の構え』」の文化を大切にしてゆきたい。そう思います。<令和7年8月25日 NO.35>

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