社長ブログ

映画「国宝」を観る  ~ 芸に生きる者の宿命と輝きに心を震わせて ~

2025.10.01

 久々に映画館に足を運びました。
 6月の興行以来、話題になっていた「国宝」を是非観てみたいと思っていたところでした。
 俳優の吉沢亮、横浜流星らの熱量の高さが評判で、歌舞伎をよく知らない人でも楽しめる映画だということがうたい文句でした。

 映画を観終えたとき、しばらく言葉を失いました。歌舞伎という伝統芸能の世界を舞台に、血と芸に生きる者たちの壮絶な人生を描いたこの作品は、単なる芸能映画ではなく、人間の本質に迫る魂の物語のように感じたからです。
主人公・立花喜久雄を演じた吉沢亮の演技には、圧倒的な熱量と覚悟が感じられました。歌舞伎という未知の領域に挑むにあたり、彼は1年以上にわたる所作の稽古を重ね、身体の使い方や視線の運びまで徹底的に磨き上げたといいます。舞台上での立ち姿、女形としての所作、そして舞台裏での葛藤を抱える表情──そのすべてが、単なる演技を超えた「芸」として立ち上がっていました。彼自身が「命を削るような体験だった」と語るほどの没入ぶりは、スクリーン越しにも伝わってきます。
 一方、俊介役の横浜流星もまた、歌舞伎の世界に真摯に向き合い、名門の血を引く御曹司という複雑な役柄を見事に体現していました。彼の演じる俊介は、華やかな舞台の裏で重圧に苦しみ、時に逃げ出したくなるほどの葛藤を抱えています。その繊細な心の揺れを、横浜流星は所作の端々ににじませ、言葉少なに語る目線や沈黙の間に、深い感情を込めていました。歌舞伎の型を身につけるだけでなく、血筋に対する誇りと苦悩を同時に抱える人物像を、丁寧に掘り下げていました。

 原作は吉田修一氏による同名小説。吉田氏は3年間にわたり歌舞伎の“黒衣”として舞台裏に入り込み、実体験をもとに物語を紡いだといいます。その深い造詣と観察眼が、登場人物の所作や舞台の空気感にリアリティを与えています。脚本は奥寺佐渡子氏。『サマーウォーズ』などで複雑な人間関係を描いてきた彼女の筆致が、登場人物の心のひだを繊細に描き出しています。さらに、監督は『フラガール』など、人間の内面に鋭く迫る作品で知られる李相日監督。制作陣の並々ならぬ覚悟と情熱が伝わります。

 物語の核となるのは、「人間国宝」という称号に至るまでの道のりです。この映画を通して、芸とは何か、伝統とは何か、そして人間国宝とは何かを考えさせられました。「人間国宝」とは、単なる称号ではなく、芸に人生すべてを捧げた者への敬意の象徴。その道は決して平坦ではなく、血と汗と涙にまみれた果てにあるものなのだということを痛感しました。
 また、田中泯が演じる人間国宝・万菊の存在感も圧巻でした。舞踏家としての身体性を活かした女形の演技は、虚構と現実の境界を揺さぶり、芸の本質を突きつけるような凄みがありました。同時に、「リアルな歌舞伎を観てみたい」という思いが強くなりました。劇中の舞台の迫力、役者たちの所作の美しさ、そして芸に懸ける覚悟──それらを実際に体感したくなったところです。歌舞伎座の一幕見席など、気軽に観劇できる方法もあると知り、今後、ぜひ足を運びたいなあと思います。

 芸に生きる者たちの姿に心を震わせながら、私自身の人生観にも静かに問いかけてくる、そんな映画でした。芸に生きるとは、命を懸けて舞台に立つこと。やはり、映画『国宝』は「100年に1本の傑作」と称されるにふさわしい作品だと感じました。<令和7年10月1日 NO.38>

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