社長ブログ

「ことば」の文化  ~ 小さな文化に学ぶ④ ~

2025.07.17

 最近、久々にハマっているテレビドラマがあります。
 池田エライザ主演のドラマ10「舟を編む ~私、辞書つくります~」です。毎週火曜日の夜10時、NHKによる放映です。6月17日からスタートし、第5話まで進みました。公式ホームページには「池田エライザ×野田洋次郎! 辞書づくりにかける情熱を描いた大ベストセラー『舟を編む』を連続ドラマ化! 新入り社員・岸辺みどりの視点で、言葉の大海原を渡る冒険をお楽しみください。」とあります。
 三浦しをん原作『舟を編む』を脚本化したテレビドラマですが、一度映画化もされています。映画は2013年に松竹の配給で公開されました。当時、映画を見て「辞書づくり」に感動した記憶がありますが、仕事や人との出逢いの中で、「ことば」にこだわり、「ことば」を大切にし、「ことば」を慈しむ、そういう姿勢が、その人の「生き方」まで変えてゆくという奥の深い内容に改めて心が動いています。
 
 テレビドラマに触発されて「ことば」の文化を少し掘り下げてみたいと思います。

 私たちは日々、「ことば」を使って生きています。誰かに思いを伝えるときも、感情を表すときも、知識を共有するときも、「ことば」は欠かせません。有名な「はじめに言葉ありき」は、新約聖書「ヨハネによる福音書」の冒頭の言葉ですが、言葉が単なるコミュニケーション手段ではなく、世界の根源であり、神そのものであるという深い意味合いを持っています。一方で、ツールとしての言葉の起源については諸説あり、歌から始まったという「歌起源説」、ジェスチャーから発展した「身振り起源説」、社会的な必要性から生まれた「毛づくろい代替説」など、いずれも他者とつながるために「ことば」を生み出したという点では共通しています。

 日本語には「雨」に関する豊かな語彙があります。「小雨」「霧雨」「夕立」「時雨」「氷雨」「五月雨」「瑞雨」「涙雨」…など、季節や情緒を繊細に表現する言葉が多数存在します。これは、日本の自然や四季を大切にする文化が言葉に反映されている証といえそうです。また、「いただきます」や「お疲れさま」といった、感謝や敬意を表す言葉も、日本人の価値観や人間関係のあり方を反映した文化的な表現です。イヌイット語には「雪」に関する語彙が何十種類もあると言われています。これは、彼らの生活が雪と密接に関わっているからでしょう。そう考えてみると、言葉はその文化の中で必要とされるものが細かく分類され、名前を与えられていくものだともいえそうです。まさに「ことば」は文化そのものといっても過言ではないと思います。
 テレビドラマ『舟を編む』の中では、辞書づくりの過程で「用例採集カード」が登場します。これは、実際に使われた言葉の例を集めるためのカードで、編集者たちは街中で人々の会話に耳を傾け、言葉の生きた使い方を記録していきます。言葉は時代とともに変化し、使う人によって意味が揺れ動き、まるで生き物であるかのようです。「ことば」は文化を映す鏡であり、世界の切り取り方を示すツールでもあることがわかります。

 ところで、皆さんは、タイトルの『舟を編む』という「ことば」をどうイメージしますか。

 英題は『The Great Passage』という「ことば」です。英題の方がドラマの中心や本質を突いているような気もしますが、私としては日本語の豊かさや奥の深さを考えると「舟を編む」に軍配が上がります。因みに、「passage」には「通行、渡航」と同じく「言葉」という意味があってドラマ内で編纂する辞書名の『大渡海(だいとかい)』の名訳であるとも評されています。ドラマの中では、辞書は「言葉の大海原を渡る舟」「人と人をつなぐ舟」であると語られます。言葉を編むことで、人の思いを乗せて未来へと渡していく…この比喩は、言葉が単なる情報ではなく、感情や記憶、文化を運ぶ媒体であることを教えてくれます。「ことば」がなければ、私たちは孤立してしまいます。「ことば」があるからこそ、他者と理解し合い、共感し、つながることができるのです。社会が分断と切り捨ての方向に動いている今だからこそ、「ことば」を大切にし、対話を通して物事を豊かに捉え、対話を通して課題解決を図ってゆく姿勢を貫くことが大切なのではないでしょうか。そして、それはさらなる文化を育て、未来へとつながる営みになるのではないでしょうか。<令和7年7月17日 NO.33>

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