社長ブログ

兄の一言

2008.03.07

山形県教職員組合刊行の『山形の子ども』第35集をいただきました。毎年、楽しみにして読ませていただいております。山形の子どもたちの優れた作品が載っています。各学年の扉の版画に始まり、巻頭の詩、作文と、どれも見事な作品です。読み応えがあります。
この作品集には、巻末に特集として、教育文化資料館収蔵の文集が紹介されています。これも楽しみの一つです。今年は、田中新治さんの「山の子 1」が紹介されていました。
「山の子 1」は、昭和12年7月に発行された、田中新治先生ご指導による吉野高等小学校高等科一年男女組の文集です。鈴木実先生の解説から引用します。
「この文集は、3つの学校から集まった生徒たちを一学期間かけて、これからどんな勉強をどんな風に一緒にやっていくかを、田中新治という担任が実践し、それをこれからの教育に活かしていくためのスタートとしてまとめた、貴重な実践の記録です」
「冬の夜」という作文があります。「冬のことでした。母のゐない夜兄がこたつにあたって何か本を讀んでゐました。弟はもう寝てしまった。私が戸棚をあけてみると………」と続きます。宮沢賢治を思わせるような書き出しです。
「私」は戸棚の砂糖を見つけて食べます。それを、帰ってきたお母さんに気づかれ、叱られ、弟のせいにしますが、それも気づかれて叱られます。その様子を見ていた兄が弟を諭す、作文の最後のところはこうです。
うそかたったことをなさけけなく思ひ、こたつにもぐると兄は「なー二男、高等科一年になると『人知れず思ふこころのよしあしもてらしわくらん天地の神』といふのを一番はじめにならふぞ」といってくれた。私は自分の悪かったことを後悔しながら目をとぢた。    
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兄の一言がいいですね。また、「後悔しながら目をとぢた」弟の二男君もいいですね。山形には、こんな清らかな、美しい、そしてあたたかい『冬の夜』がありました。温風ヒーターなんかのない、こたつにもぐり込むくらしがありました。お母さんだけで、お父さんは今は家にはいないというくらしがありました。家族の心が通い合うくらしがありました。
田中新治は、文集の「あとがきに」こう書いています。「自分の家で蚕でいそがしい時に遊んでゐたり、働くのをいやがってゐたりするのは山の子ではない。自分の家のくらしのことも考へず、品物を丁寧に使わないのも山の子ではない。自分が生きてゐる生活の土台のことを心に刻んでおかなければならない。文集をとほして」
道徳教育の教科化を叫ぶ人たちは、知らないだろうなあ。この、山形の教育の伝統を。

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