社長ブログ

「学ぶこと」のありがたさ

2017.04.24

 黄水仙 咲く街道の 遊歩道 (加藤哲夫)
春爛漫の季節を迎えています。昔勤めていた山間の学校、作谷沢小中学校では、この時期になると中学生が全員で(全員と言っても1年から3年生まで15人の少人数でしたが)校庭の土手に水仙を植えていました。冬期間は1m50㎝にもなる積雪を記録する土地だけに、生徒たちが植える黄色い花を見ると、ようやくこの地にも春が来たなという何かしらほっとするような思いがしたものです。
007%20%28188x250%29.jpgさて、年を重ねてくると涙腺が弱くなってきます。テレビや新聞の記事にもグッとくることがしばしばです。一月前の朝のニュースを見ていて、またまたグッとくることがありました。
それは、「無戸籍者」を扱ったニュース特集でした。「無戸籍者」とは「戸籍を有しない人」のことです。戸籍のない人がいるということはおぼろげながら知っていましたが、番組を見てその実態を初めて知りました。
生まれた人間については必ず出生届を出して戸籍を作成することになっていますが、何らかの事情によって親がその手続きを怠った場合に無戸籍者が発生するのだそうです。その事情のほとんどが、離婚や怠慢などで親が出生届を提出しなかった場合だそうです。
特集で取り上げていたのは、35歳になる女性でした。両親はいたものの、家計が逼迫して出産費用も払えず出生証明書を病院からもらうことができず、出生届が出されませんでした。
無戸籍のまま小学校にも中学校にも通えず、大人になるまで十分な読み書きもできない状況でした。小さい頃、母親にどうして学校に行けないのか訪ねても、母親は悲しそうな顔をするだけで、その顔を見るたびに悲しくなったそうです。
学歴が全くないために履歴書も提出できず、仕事は居酒屋の皿洗いや倉庫の荷下ろしなどの作業が主でした。
その後、巡り会いがあり結婚、子どもも生まれました。そして、無戸籍者本人は、家庭裁判所の許可を得て就籍(戸籍のない人が新たに戸籍に記載されること)できることを知り、ようやく戸籍を得て無戸籍を解消することができました。
30歳を過ぎてから、「子どもが大きくなったときに宿題とか教えてあげられないと恥ずかしい」と決心し、ようやく中学校に通い始めます。努力の甲斐もあり、この春中学校を卒業することができました。中学校ではマンツーマンによる指導もあって、学ぶことの楽しさを覚えながら勉強することができたそうです。将来、司法書士になることを目指して日々勉強にがんばっているそうです。
卒業式で女性は涙を流しながら、次のように語っていました。
「わたしは無戸籍で小学校も中学校も通えなくて、いろいろなことをあきらめて生きてきたけど、いろんな人に助けられて、今回、中学校を卒業することができて、新しい目標もできてよかったと思う。今後、目標に向かって精いっぱい頑張っていこうと思う。ありがとうございました」
身近ではまったく考えられないことです。長い教員生活の中でも経験がありません。しかし、法務省が把握している無戸籍者は全国で700人を超え、学齢に達している児童生徒は191人、その内、学校に通わなかった期間がある子どもは7人いるそうです。
日本国憲法第26条には「すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする」とあります。
昨年、文科省もようやく「小学校等の課程を修了していない者の中学校等入学に関する取扱いについて(通知)」を出して、未就学者への支援を打ち出しました。しかし、現実にはまだ無戸籍者の未就学があります。
006%20%28220x165%29.jpgまた、無戸籍者ではありませんが、沖縄県読谷村の83歳の女性が、この春、中学校を卒業して卒業証書を手にしたことが報じられました。終戦直後に中学校に進学したものの、戦後の仕事不足に加え、高齢の両親に代わって家計を助けるために、14歳から働き始め学校には行くことができなかったそうです。
姪が、県が戦中・戦後の混乱で義務教育が終えられなかった人を対象に実施している「義務教育未修了者支援事業」を知り、中学校に通うことを勧め、79歳で入学、5年をかけて卒業することができたそうです。
女性の言葉、「学院では学生に戻った気分で、同級生同士ライバル心もあった。卒業証書を受け取ったとき、もっと授業があればいいのにと思った」。
お二人の女性の姿からは、学ぶことの喜び、楽しさが伝わってきます。向学心の高さを伺うことができます。
4月の入学式のニュースを見て思うこと。真新しいランドセルを背負い、二度と着ることのないような晴れ着に着飾ること、そのことが一年生になったことではないんだよ。君たちがテレビのインタビューで「○○の勉強にがんばりたい」「お友達と勉強がんばりたい」と答えたこと。そのことを忘れないで、毎日学校に通えること、友達と遊べること、楽しく勉強できることのありがたさを感じて欲しいなと強く思います。学校に通うことが当たり前、勉強するのもしょうがないことと思っている子ども達諸君も、「学ぶこと」の幸せ、ありがたさをもっと感じてくださいね。(2017.4.24)

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